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札幌地方裁判所 昭和47年(ワ)1036号 判決

原告

本間武志

原告

本間キシ子

右両名訴訟代理人

山根喬

外一名

被告

札東興業株式会社

右代表者

若松久二

被告

株式会社栗虫組

右代表者

栗虫久夫

右両名訴訟代理人

武田庄吉

外一名

主文

一  被告株式会社栗虫組は原告らそれぞれに対し、金二、一三二、〇〇〇円および内金一、九三二、〇〇〇円に対する昭和四七年六月一六日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告らの被告株式会社栗虫組に対するその余の請求、および、被告札東興業株式会社に対する請求を棄却する。

三  訴訟費用は、原告らと被告株式会社栗虫組との間においては、原告らに生じた費用の四分の一を被告株式会社栗虫組の負担とし、その余は各自の負担とし、原告らと被告札東興業との間においては全部原告らの負担とする。

四  この判決は、第一項にかぎり、原告らにおいて夫々金二〇万円の担保を供するときは、仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一、請求の趣旨

1  被告らは連帯して、原告ら各自に対し、金四、八六四、〇〇〇円、および、内金各四、四一四、〇〇〇円に対する昭和四七年六月一六日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

二、請求の趣旨に対する被告らの答弁

1  原告らの請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二  当事者の主張

一、請求原因

1  本件事故の発生

昭和四七年六月一六日午後三時三〇分ころ、原告らの二男訴外本間禎久(当時満四才)は、その近所の子供四名(何れも小学生)と共に札幌市豊平区福住一九七の福住第七団地造成工事現場内で遊んでいた際、仲間の小学生らがその側面を地面に接して立ててあつたマンホール用のコンクリート製の円管(直径一一八センチメートル、側面の幅一五センチメートル、厚さ九センチメートル、重さ一一四キログラム)を押したところ、これが転るように動き出し禎久に当つて倒れ、禎久はその下敷となつて頭蓋底骨折による脳幹損傷を受け、同日死亡した。

2  被告株式会社栗虫組(以下、栗虫組と略称する)の責任

被告栗虫組は、本件造成工事現場で、土地造成工事を行つていたものである。

土地造成工事現場においては、機械等を用いて危険な作業が行なわれるし、また、各所に側溝等が掘られ、資材等も置かれているので、作業施行者は、造成現場に一般人殊に子供らが立入ることのないように、現場の周囲に柵で囲を設け、あるいは、外部から現場に通ずる通路部分にバリケードやバラ線を設置し、立札等により立入を禁止し、また、監視員を常駐させるなどして、これらによる危険を未然に防止すべき注意義務があるというべきである。特に、本件造成現場は、原告らが居住する雇用促進事業団宿舎(いわゆる団地)に近く、付近に一般住宅も多かつたのであるから、一層その必要は強かつたというべきである。また、周囲に囲等がなく、子供らが容易に造成現場に入り込めるような場合には、造成現場内での機械や資材の管理には、十分の配慮をなし、これによる危険の発生を防止すべき注意義務があるというべきである。

しかるに、本件造成現場には、一般人の立入りを阻止する柵の囲を設けておらず、また、立入りを禁止する旨の掲示もなく、監視人もおらず、一般人や子供らが、自由に造成現場に出入りできる状態であつた。特に造成現場の前記団地側には、造成現場に通ずる小径があり、禎久らもここを通つて、事故現場に至つたのであるが、この小径にも、バリケードの設置などの措置はなされていなかつた。また、事故当日は偶々、札幌祭の日に当つていたため造成作業は行なわれておらず、市内小学校も休みで、造成現場が子供らにとつて格好の遊び場になることは十分予測できたのに、造成中で表面が柔らかく、凹凸のある土地上に、相当な重量をもつ本件コンクリート円管を含むコンクリート円管(幅一五センチメートルから三〇センチメートル重量一一四キログラムから二二八キログラムのもの)数本が側面を地面に接して立てたまま安定の悪い状態で放置されていたのである。

その結果、本件造成現場内に入り込んだ小学生らと禎久が右円管に触れて遊んでいる間に右円管が倒れ本件事故が発生したのであるから、本件事故は、その事業を執行するにあたり、前記のような注意義務を怠つた被告栗虫組従業員の過失に基因するものというべきである。従つて、同被告は、民法七一五条により後記損害を賠償する義務がある。

3  被告札東興業株式会社(以下、札東興業と略称する)の責任

被告札東興業は、本件土地造成工事につき被告栗虫組を使用し、これを指揮監督して工事を施工していた。そして本件事故は被告栗虫組の従業員らの前記過失によつて生じたものであるから、被告札東興業も民法七一五条により後記損害を賠償する義務がある。〈以下略〉

理由

一本件事故の発生

昭和四七年六月一六日午後三時三〇分ころ、禎久がその近所の小学生四名と共に本件宅地造成工事現場内で遊んでいた際、そこに置いてあつたマンホール用のコンクリート製円管に触れて同日死亡したことは、当事者間に争いがない。

二本件造成工事現場の状況

〈証拠〉を総合すると、つぎのような事実が認められる。

すなわち、本件宅地造成工事は、福住第七次分譲地造成工事の名称で、被告札東興業が、被告栗虫組に請負わせて宅地造成工事を行なわせていたものであるが、昭和四七年五月一五日ころから本件事故の発生した日の前々日までは、ほとんど休みなしに継続して工事が行なわれてきていた。本件造成現場の広さは、約四万平メートル強であり、その北側には、三〇〇メートルないし三五〇メートル程離れて原告らの居住する促進事業団宿舎の団地があり、その間には、一般民家も多く建つていた。本件事故の起つた場所は、造成現場全体の中央よりやや北側にあり、造成現場の北西端にあつた現場事務所から約六〇メートル程離れ、また北側の境界からも六、七〇メートル内側に入つた地点であつたが、前記の一般民家と造成現場の北側境界間には、草の生えた以前からの小径があり、これに続いて、造成現場内には、仮設道路が設けられていた。そこで一般人や、年少の子供たちが、右小径と仮設道路を通つて、事故現場に入りこむことは容易であつた。そして本件事故当時は、造成現場内では、下水管の埋設工事段階であつて、各所に深い溝が掘られたり、マンホールが作られたりしており、また、土木工事機械や資材等も運び込まれていた。従つて年少の子供たちが、造成現場に入り込んで遊んだりすることは、一般的に見ても危険な状態にあつた。しかるに、本件事故発生以前には、右小径には造成現場への立入りを禁止する旨の掲示もなされていなかつたし、バリケードなども設置されていなかつた。

他方、本件事故現場には、下水道のマンホール用の継足管として使用する外径一一八センチメートル、肉厚九センチメートル、幅各二〇センチおよび三〇センチのコンクリート製円管が合計五本置かれていた。その重量は、幅二〇センチのもので一四八キログラム、幅三〇センチのもので二二二キログラムであつた。事故現場の地面は整地されておらず、軟弱でかつ凹凸があつた。本件事故の前日と当日は、札幌祭の日にあたつており、造成工事は、その前々日の夕刻から休止して、建設機械等は、一ケ所に集められ、造成作業は行なわれていなかつた。しかし、現場の保守と資材の管理等を行うべく、下請作業員の訴外三浦平吉が飯場に残つており、事故の前日と当日、各一回造成現場全体の見廻りをしたが、本件事故の当時は飯場に帰つていた。

以上のような事実が認められる。

証人鈴木暁は前示造成現場北側境界に沿つて幅約五〇センチメートル、深さ約五〇センチメートル程度の素掘りの側溝があつた旨証言し、又証人柿本享、同鈴木暁、同三浦平吉は本件事故発生当時迄に既に前示本件造成工事現場に通ずる小径には、造成工事現場への立入を禁止する旨の掲示がなされかつバリケードが設置されてあつた旨証言するが、何れも〈証拠〉に照らしてにわかに措信し難い。

三本件事故の態様

〈証拠〉によれば、訴外田口喜枝子は本件造成工事現場付近に居住していたものであるが、本件事故発生の直後、子供たちに知らされて自宅から事故現場に駆けつけたところ、禎久がうつぶせになつて地面に倒れており、一本のコンクリート製円管の切口面が同人の肩から背中にかかり、その円管のうえに、さらに、二本の円管の切口面が一部ずつかかつて倒れていたこと、禎久は両耳から出血をしており頭蓋底骨折で即死に近い状態だつたこと、右田口は近くにいた小学生らに手伝わせて先ず上にかかつていた二本の円管をそれぞれ取り除いた後、さらに、前記自宅の近くに立戻り、居合わせた隣家の主婦訴外クワヤ某女を呼び寄せその助けをかりて禎久にかかつていた残りの円管を取り除いて禎久を救出したこと、その時には、右三本の円管の倒れていた地点から約三、四メートル離れて、さらに二本の円管が側面を地面に接するようにして立つていたこと、この二本の円管は、その後現場に駆けつけた消防署員らによつて倒されたことが認められる。また〈証拠〉によれば本件事故の数日以前頃本件事故現場に円管数本が側面を地面に接するようにして立てられてあつたことが認められ、また〈証拠〉によれば、事故当時本件現場で遊んでいたのは四才の禎久と小学校一年から四年生の小学生四名であり、前記認定の本件円管の重量を考えるとこれらの子供たちが、円管五本全部を立てたと考えるのも極めて不自然である。従つて、本件事故の直前には、右の五本の円管はすべて側面を地面と接するようにして、従つてその型状からして不安定な状態で立つていたものと推認される。これに反し、証人今村与一は、警察官として事故の当日実況見分を行つた際には、事故現場に置かれていた五本の円管のうち四本は、切口を地面に着けて平に置かれており、この四本には、移動された根跡がまつたく見当らなかつた旨、および、事故現場は地面が柔かで、円管を立てることはできなかつた旨を証言し前掲甲第一号証中にも、一部これに副つた記述がある。しかしながら、これらは前掲の各証言の内容に照らして到底採用し難いのみならず、そもそも、同証人が同一時に撮影したという甲第三号証の各写真の間でも、円管の置き方に相違が認められ、実況見分調書である甲第一号証の内容もこれらと種々矛盾し、また、同証人の証言からうかがうかぎりにおいても、本件事故状況に関する捜査は不十分なものであつたと推認されるところ、同証人の証言は、これを糊塗せんとするかに見えるものであつて、全体としても信用性に乏しいものといわざるを得ない。

また、証人三浦平吉は、事故当日の午後二時半ごろから工事現場を見廻つた際には、事故現場の円管は横に重ねるなどしてねかせて置いてあつたし、事故直後にも、立つていた円管はなかつた旨証言し、証人柿本享も、前々日に同人が見廻つた時には円管はねかせてあつた旨証言し、証人鈴木暁はコンクリート円管について日頃から横にして置くように指示していた旨証言しているが、何れも前示認定事実に照らし措信し難い。

以上認定の各事実と、〈証拠〉を合せて考えると、結局、本件事故は、禎久ら五名の子供が、前項判示の北側の小径を通つて、本件事故現場に至り、右のように側面を軟らかい地面に接して不安定な状態で立ててあつたコンクリート製円管に触れたりその輪の中に入つたりして遊んでいるうちに右の円管三本が相続いで倒れ、逃げおくれた禎久がその下敷となつて死亡したものと推認せざるを得ない。

四被告栗虫組の責任

〈証拠〉を総合すると、被告栗虫組は、本件宅地造成工事を請負つたのち、整地作業、下水道埋設作業等を、さらに訴外月寒工務店に下請けさせたが、造成現場には現場代人(監督)として従業員の訴外鈴木暁を常駐させ、工事全体の進行を監督し、右月寒工務店の行う工事について、具体的な指示を与えていたこと、右鈴木の職分には、造成現場の安全管理に関する事項も含まれており、同人は、この点でも現場で具体的な指示を与え、その責任を負つていたことが認められる。

しかして、本件宅地造成工事現場においては、前記認定のように、本件事故当時は、下水管の埋設工事が行なわれており、各所に深い溝が掘られ、かつ可成りの重量のあるコンクリート管等の資材が置かれる等して年少の子供たちが造成現場に入りこんで遊んだりすることは一般的に見て危険な状況にあつたものと認められるのであるから、前記認定のように、付近に人家の多数存在する地域においてこのような造成工事を行う者は、右のような危険を警告し、かつ、子供たちが工事現場に入りこむことのないように、適切な措置を構ずると共に、その措置において万全を期し難い以上、造成現場における資材や機械の置き方や、作業の進行などにも、十分な安全措置を構ずべき義務が存するものというべきである。もつとも、いかなる程度にこれをなすべきかは、造成現場において予想される危険の大小、子供たちが現場に入りこむ可能性の大小、あるいは、これに要する費用等との関係で、相対的かつ相互補完的に決定されるべき問題であつて、本件の場合、造成現場の面積などをも考慮すると、原告主張のように造成現場の周囲に全体的に柵等で囲を設けたりするまでの義務が被告に存したとは断じ難い。しかしながら、前記認定のように、本件事故当日および前日は札幌祭の日に当つていて工事は休止され、かつ、小学校も早じまいで、子供たちが造成現場に入りこむことは十分予想できたのであるから、少くとも前記の団地側の小径には、十分なバリケードを置く等して、立入りを禁止し、あるいは、見廻り監視を十分にすると共に、本件コンクリート円管についても、子供たちがこれに触れて遊んでも危険の生ずることのないように切口を地面に着けて、容易に動かせないような状態で、ねかせて置くべき注意義務の存したことは明らかである。右注意義務の存在は、証人鈴木暁自身、本件証人尋問の際に、工事を休止するにあたつては現場の安全管理に留意し、入口にバリケードを置くこととか、下水管を掘つていたので、穴になつているところは埋めあるいはロープを巻くことを指示し、また重機は危いので、工事現場のなるたけまん中に集めて置くように指示した旨を証言していることからも肯認されよう。

しかるに、本件造成現場においては、前記のように右の小径にはバリケード等の設置がなされておらず、かつ、本件コンクリート円管は、柔らかな地面上に、側面を地面に接するようにして極めて不安定な状態で立てたまま放置してあつたものと認められるのであるから、以上の点について、現場代人の訴外鈴木暁に前示の注意義務を怠つた過失が存したことは明らかである。その結果前記認定のように本件事故が発生したものであるから、その使用者である被告栗虫組は、これによつて生じた後記損害を賠償する義務がある。

五被告札東興業の責任について

前示認定のように、被告札東興業は被告栗虫組に本件工事を注文して請負わせていたものであつて、これを使用していたものではなく、被告栗虫組が工事全体につき責任をもつて施工していて被告札東興業が工事の進行等につき具体的指示を与える立場にはなかつたものであるから、被告札東興業が本件事故に関して民法第七一五条による使用者責任を負ういわれはない。

六損害

1  禎久の逸失利益 金四、五二八、〇〇〇円

原告本間武志本人尋問の結果によれば、事故当時禎久は健康な男児であつたことが認められその年令が四才九ケ月であつたことは当事者間に争いがない。したがつて本件死亡事故による禎久の得べかりし利益の喪失額の現価は次のように認定するのが相当である。

(1)  最低年収額 金一、三四八、三〇〇円

昭和四七年度における賃金センサス、パートタイム労働者を除く全男子労働者の産業計・企業規模計・学歴計の平均月間現金給与額に平均年間特別給与額を加算した額で、右額は禎久が少なくも就労期間中あげえた収入と考えられる。

(2)  就労可能年数 満一八才から六五才まで

満四才の男子の平均余命は昭和四八年簡易生命表によれば67.87年であり、禎久は満一八才から満六五才まで就労可能なものと考えられる。

(3)  生活費控除 五〇%

右収入をあげるために必要な生活費は収入の五〇%とみられる。

(4)  中間利息控除 ライプニツツ係数9.0816348

禎久が本件事故当時から満一四年後から六一年後まで稼働するものとした場合の年ごとライプニツツ方式による年金現価額係数である。

(5)  逸失利益の現価額 六、一二二、三八四円

1,348,300×0.5×9.081625  ≒6,122,384

原告らの請求する逸失利益の額四、五二八、〇〇〇円は右金額を下まわることが明らかであるから、これをもつて、禎久の逸失利益とする。

2  禎久の慰藉料 金一、〇〇〇、〇〇〇円

死亡した禎久の精神的損害を慰藉するための慰藉料は原告らの請求するとおり金一、〇〇〇、〇〇〇円とするのが相当である。

3  葬儀費用 金二〇〇、〇〇〇円

〈証拠〉によれば、禎久の死亡に伴ない同人の葬儀関係費用として原告らは合計三一三、五五三円を支出したものと認められるところ、禎久の死亡当時における年令等を考慮すると、本件事故と相当因果関係を有する葬儀費用は金二〇〇、〇〇〇円とするのが相当である。

4  原告らの慰藉料 各金一、〇〇〇、〇〇〇円

原告本間武志本人尋問の結果によれば、禎久は原告らの次男であり、他に長男がいることが認められるが、満四才という可愛いい盛りに事故で我が子を突然失つた原告らの悲しみが大であることは窺うに難くない。その精神的苦痛に対する慰藉料は各原告につきそれぞれ金一、〇〇〇、〇〇〇円とするのが相当である。

七過失相殺について

原告本間武志本人尋問の結果によれば、禎久は、普段は原告キシ子の勤めていた会社の托児所に預けられていたが、事故当日は札幌祭のため原告武志の会社が休みで、また、長男も小学校から午前一〇時ころに帰えつてくることになつていたので、原告武志は、二人の子供を動物園に連れて行こうと考え、禎久を托児所に預けずに、一人で自宅付近で遊ばせていたこと、原告武志が最後に禎久の遊んでいるのを見たのは本件事故発生の五〇分程前である同日午後二時四〇分ころのことであり、その後、禎久と一諸に遊んでいた子供たちが自宅に知らせにきて初めて本件事故の発生を知つたこと、原告らが前記雇用促進事業団宿舎に入居したのは昭和四六年五月ころで、その後同四七年春から団地の近くで本件工事が始まつていることを原告武志も知つていたことを認めることができる。

禎久が本件事故当時満四才九か月の幼児であつたことは前記のとおりであるが、この程度の年令の子供は、好奇心も強く、また同年代や年上の仲間とも遊ぶようになるため、その行動範囲が広がつてくるが、他方、危険を予知しこれを回避する能力はこれに伴なつて高くなつてはいかないのであるから、幼児の親等監護義務を負う者としては、常日頃から危険な場所に近よらないように、注意するとともに、このような場所が身近に存在しているような場合には幼児の行動に断えず注意を払い、幼児がそこに近寄つたりすることのないよう配慮すべき義務を負つているというべきである。

しかるに、前記認定のような諸事情に照らすと、原告武志が右のような監護義務を怠つていたことは明らかであり、その結果本件事故が発生したものと認められる。右のような原告武志の過失は、いわゆる被害者側の過失として考慮すべきものであり、前記判示のような被告側の過失の態様、本件事故の態様などを総合して考えると、過失相殺として、前記禎久および原告ら両名の損害の各二分の一を減じた額をもつて、被告栗虫組の賠償額とするのが相当である。

しかして、以上の各損害のうち、禎久の損害賠償請求権は禎久の両親である原告らにおいて法定相続分に応じ二分の一ずつ相続され、葬儀費用も原告らにおいて二分の一ずつ支出されたものとして、原告ら各自の損害賠償額を算定すると原告両名についておのおの金一、九三二、〇〇〇円となる。

八弁護士費用の損害

原告らが本件訴訟の追行を弁護士に委任していることは当事者間に争いがなく本件訴訟の内容、その経過、認容額、および、前記被害者側の過失等を斟酌すると、原告らにおいて訴訟代理人に支払う弁護士費用のうち、被告に対し損害賠償として請求し得べきものは各金二〇〇、〇〇〇円と認めるのが相当である。

九結論

以上の次第であるから、原告らの請求は、被告栗虫組に対し各自金二、一三二、〇〇〇円とこれから弁護士費用の損害を除いた、一、九三二、〇〇〇円に対する本件事故発生の日である昭和四七年六月一六日から右支払ずみまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があるからこれを認容し、その余の請求はいずれも失当であるから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九二条を、仮執行の宣言につき同法第一九六条一項を適用して主文のとおり判決する。

(磯部喬 小田耕治 平澤雄二)

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